もしも、橋の上であのおじさんに会わなければ……人生は興味深い。
文 湯本香樹実
絵 酒井駒子
出版社 河出書房新社
税込価格 1,650円
学校帰り、ぼくは橋の上で川の水を見ていた。するといつのまにか、何年も脱いだことがないみたいなセーターを着たおじさんが隣に立っていた。「川が好き?」とぼくに聞いた。好きなわけじゃない。本当は、今ここから川へ飛びこんだらと考えていた。盗んでもいない本を盗んだと言われたり、上着をゴミ箱に捨てられたり、そんなことが頭の中をかけめぐっていた。おじさんは「耳をぎゅうっとふさいでごらん。遠くからやってくる水の音がきこえるよ」と言った。やってみた。本当だ、ぼくに向かって何かを運んでくる。力強い水の音が生きろと言っている……。