我が家のじぷた
佳作 我が家のじぷた 森川詩穂(もりかわ・しほ)・鳥取県・32歳 息子は、四月一日に生まれた。早生まれの中でも最後の日。つまり、学年で一番誕生日が遅いことになる。 大人になってしまえば、たった一年の違いなどいくらでも埋 …私たちの冷蔵庫
佳作 私たちの冷蔵庫 周東優香(しゅうとう・ゆか)・京都府・31歳 「冷蔵庫を本棚にしている」と彼は言った。私は一瞬、冗談かと思ったが、向こうはどうやら本気らしい。 大学生の時にふとしたことで知り合ったその人は、同い年 …祖母の読書
佳作 祖母の読書 新藤悦子(しんどう・えつこ)・山梨県・55歳 六月に九十九歳で亡くなった祖母は、平仮名の読み書きしかできなかった。実の母親が早く亡くなり、継母の元、小さい弟妹の世話をしなければならず、赤ちゃんを背負っ …ねこたちの夜
佳作 ねこたちの夜 松山よしこ(まつやま・よしこ)・神奈川県・70歳 六十歳で仕事をやめた時、まわりには誰もいなかったし、何もなかった。夫は早くに亡くなり、息子はひとり暮らしをしていた。 毎日がお休みで… …ねえねえと、うちにいないおとうと
佳作 ねえねえと、うちにいないおとうと 池田裕美(いけだ・ひろみ)・茨城県・34歳 五歳の娘がねえねえになりました。おとうとが生まれたのです。 無事に生まれることができても長く生きられない18トリソミーという染色体異常 …風呂焚き読書
佳作 風呂焚き読書 吉田セツ(よしだ・せつ)・福島県・84歳 昭和の初めの頃、私たちの育った農家では、土間に土で作った料理用の「へっつい」という、かまどが三つ位どっしりと並んでいて、その土間続きに風呂場がありました。風 …読み聞かせの天使
佳作 読み聞かせの天使 村上裕香(むらかみ・ゆか)・北海道・29歳 「読み聞かせをしてもいいですか?」 乳幼児健診の待合室で声をかけられた私は、戸惑っていた。膝(ひざ)の上の息子はまだ10か月。これで何人目かな? 次はど …進まない栞
優秀賞 進まない栞 小林茂男(こばやし・しげお)・東京都・56歳 「おい、今度この本買って来てくれないか」 そう言って父は僕に小さな新聞記事を差し出した。 それは和辻哲郎の『古寺巡礼』を紹介した書評記事だった。「これはい …さりげない読書
優秀賞 さりげない読書 邱力萍(チュウ・リーピン)・埼玉県・46歳 「あなたは本が好きでしょう」 私が学校の図書館から夏目漱石や、谷崎潤一郎の単行本を借りて来る度に、周囲の人達はいつも驚いた顔になる。「いつもこんな難しい …小さな図書室
優秀賞 小さな図書室 高山恵利子(たかやま・えりこ)・群馬県・61歳 私は山里の小さな学校で学びました。校庭だけは十分な広さがありましたが、理科室や音楽室には、そう呼ぶに相応(ふさわ)しい物が揃っていたわけではありません …