第24回「家の光読書エッセイ審査会」 審査講評
審査員
(敬称略)
落合 恵子
作家・子どもの本の専門店 クレヨンハウス主宰
今回は特に、とても完成度の高い作品が多くありました。作品を拝読し、本は、心の居場所であるというところに、改めて落ち着くことができたらいいという望みを持っています。
二〇二三年度に不登校の子どもの数が過去最多になりました。そういった子どもたちにとっても自分の気に入った本を一冊、あるいは本のなかから気に入った一行を見つけることで、心のなかで動き出すものがあるような気がします。本を読むことの意味を、地域社会全体で考えていきたいと思っています。作品「写真の君へ」のなかの「本は人間よりも長生き」というフレーズは、とても心に響きました。人間のゆるやかな言葉として語られることも、とても大切なことだと思っています。
本を読むことに加えて、さらに言葉にすること、書いて表現をすることを、これから大事にしていただけたらとても嬉しく思います。
岸本 葉子
エッセイスト
私が印象に残ったのは、読書が困難な人々をテーマにした作品「読み書き教室のこと」や「奇跡の時間」です。
家の光読書エッセイが二十四回を重ねて、日本の産業構造が大きく変わったにも関わらず、貧困であったり、母語が日本語でなかったりして、さまざまな理由で読書に親しんでこなかった人が増えています。読書の新たな困難な状況に向き合わざるを得ない人々に向けて審査を通じて発信できたことは、今回とても大きな意義があったと思います。
作品「夜の読書会」「小さな朗読会」なども、生きづらさを抱えている少年少女たちに、読書が一つの力になっていることを感じました。子どもたちがこれから出合うかもしれない生きづらさを、とくに紙の本は支えてくれます。そのことをメッセージとして送りたいと思います。
安冨 ゆかり
JPIC読書アドバイザー
電子書籍の普及もあり、読書スタイルは多様になっています。乗り物の中で本を広げる姿も少なくなりました。それでも、今回作品を読ませていただいて感じたのは、“紙の本”の大切さでした。
海外生活での読書事情の思い出を書かれた作品には、本屋さんに行って紙の本を見たい、触りたい、読みたいという気持ちが描かれ、本がどれだけ安心感や救いをもたらしたかが伝わりました。言葉が文字となり、紙に記されて本になる。形をなして存在する、紙の本なればこその力を再認識しました。
本の在り様が変わっても、読書の楽しみや役割りは不変だと思います。自分なりのペースと方法で本を愉しみながら、その魅力を伝えることも続けていきたいと思っています。
新美 健司
家の光協会 常務理事
初めてエッセイの審査員として参加させていただきました。仕事道具としてパソコンが必須となり、ペーパーレス化が進み、画面のデジタル情報と常ににらめっこ、が業務の主軸となっている身としては、皆さんから寄せられた手書きの原稿(ワープロ印字の原稿でも)を見るだけで、心温まる、ほっこりした気分を味わいました。
また応募作品一つ一つに向き合い、じっくりと読ませていただくことにより、たいへん豊かな、幸せな時間をいただいたというのが率直な感想です。私自身は、作者を取り巻く情景や登場人物の息遣いなどがリアルに伝わるような作品を評価したつもりですが、最終選考に残った作品はまさに甲乙つけがたい、素晴らしい内容ばかり。紙の本と向き合うことの大切さを感じました。
今回をもって家の光読書エッセイは最後となります。審査員の先生方には、長きにわたって読書エッセイの審査に携わっていただき、誠にありがとうございました。